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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)4681号 判決

本籍

千葉県君津郡飯野村前久保一四三番地

住居

同県木更津市桜井南町六六八番地

鍛治工

沼田隆次

大正一一年一月一〇日生

右の者に対する窃盗、昭和二四年政令第三八九号違反被告事件について、昭和二六年一〇月八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人の原審弁護人大沼末吉から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

昭和二四年政令第三八九号違反の事実について被告人を免訴する。

理由

本件公訴事実中昭和二四年政令第三八九号二条一項違反の事実については、昭和二七年政令第一一七号大赦令により大赦があつたので、刑訴四一一条五号、四一三条但書、三三七条三号により、原判決及び第一審判決を破棄し、右事実につき被告人を免訴すべきものである。

しかして弁護人藤原繁次郎の本件窃盗の公訴事実に関する上告趣意は単なる法令違反の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかも所論小此木運転手のガソリン消費に関する占領軍との関係につき原判決の指摘する事実関係を基礎として考察する限り、本件自動車のガソリンタンク内のガソリンの事実上の支配権は、どこまでも占領軍当局に保有されたもので、同運転手はこれを独立して占有するものと認めることができないから、同運転手の本件ガソリンの抜取行為は正に窃盗であつて横領ではない、従つてこの点に関する原審の見解は正当であり、右以外の論旨は結局被告人の同運転手との窃盗の共犯関係につき、事実誤認を前提として独自の法律論をなすものでいずれも採用するを得ない。

よつて第一審判決が証拠により確定した大赦にかゝらない窃盗の事実につき刑法二三五条六〇条を適用して被告人を懲役六月に処し、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条により主文の如く判決する。

右は裁判官全員一致の意見によるものである。

検察官 熊沢孝平出席。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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